11 イスラム国 テロリストが国家をつくる時


脇道堂書店 〜わたしの一冊〜編集者/柏子見

脇道堂書店_横長タイトル

中東の“リアル国盗り物語”にゆれ動く、アジアの純真.

まず初めにおことわりしておきますと、私はそこそこ敬虔で、近所にある
お寺のフリをした拝金主義のセレモニーホールが大嫌いな仏教徒でございます。
「花八層倍、薬九層倍、お寺の坊主は丸儲け」、「坊主ほど仏の教えから遠い者はない」なんて
昔からよく言いますが、あの寺の住職には、もう一度般若心経を端から読み直せと言ってやりたい。 

さて、いきなり脱線しましたが、2001年のいわゆる9.11以降にありがちな
「中東のテロはド犯罪で、アメリカの報復爆撃はOK」という風潮に
いまいち納得がいかなかったフェア精神あふれる私にとって、
イスラム国のリーダーによる建国宣言のニュースは衝撃でした。

彼らを知った時、私の道徳観は大いに混乱しました。
黒い服を着て、あからさまに悪そうな感じをむしろ出していこうという
ヤンキースタイルで悪の限りを尽くしているけど、一定の統治能力もある奴ら。

かたや政府は、暴君が自国民に毒ガス盛っちゃうド畜生ぶりでアメリカ介入寸前。
きっと、今ある国家も大なり小なり、人を殺して自分達の国を創ったんだろう。
過激か過激でないかの違いで、自分達がやったことを、お前らはダメ、お前らは悪だって、爆撃して潰す。
そんなことが許されるのか。なんか筋が通っていないんじゃないか、と。

結局、私が戸惑っている間にイスラム国は人質事件を起こしたり、
ほぼほぼ全世界に宣戦布告するなど脅威のツッパリぶりで「vs the world」みたいな構図にして、
半ば自主的に縮小の道を歩んでいますが、もし、白い服でも着て占領地にもっとゆるい戒律で
善政を敷いていたら、(影で殺戮が行われていたとしても)結果は違ったかもしれません。
まあ、歴史でifを語りだしたらきりがないのでやめておきます。

網の目をくぐり抜けるような器用さで建国のスタートラインに立った彼らですが、
およそ現代では受け入れられない化石みたいなルールを建前でなく本気で引っ張りだして、
従わない者を十把一絡げに敵と見なしたことや、どうしても敵対心や恨みが勝って
ビジネスに徹した外交ができない“不器用さ”が、彼らの敗因でしょう(ドヤ顔)。
とは言え、その頑な部分が、彼らの神の教義に対する解釈と被虐の歴史から来ていて、
それは曲げられない美学だというのなら、建国など土台無理だったという話になるのですが(再ドヤ顔)。

彼らには、圧政のムチで苦しんでる民に別のムチ持っていってどうすんだと、
檀家あってのお寺だぞと、色即是空だぞと言ってやりたい。宗教違うか。

また話が逸れましたが、私の一冊は中東事情に精通したイタリア系アメリカ人の
ジャーナリストが「こいつら普通のテロ組織じゃないよ。マジで国創るかもよ」
という観点で情報をまとめた、イスラム国についての本です。

イスラム国 テロリストが国家をつくる時 著/ロレッタ・ナポリオーニ 訳/村井章子 解説/池上彰

当時、皆が思ったであろう「こいつらは一体何者なんだ!?」に最も早く答えた解説書ですが、
同時に、まだそこまで悪目立ちしていなかったイスラム国に対して、一定の人間が密かに抱いていた
「もしかしたら、叙事詩でしか読むことができないような、国興しの過程を目の当たりにできるのでは?」
という野次馬的な期待感に応える本でもあります。
副題が奮っているというのもありますが、
恣意的でなく、結果として建国を達成し得るような情報が揃っているからです。
もちろん、イスラム国メンバーの成り立ちについても書かれており、
表面的な善悪では語れない相当に複雑な状況であることもわかります。

私は、この一冊を主な情報源に、混乱した道徳観を見直しました。
正確には見直そうと試みました。結局、こんな複雑な問題、道徳などという偏狭の主観で
判断することなんて、決してできないということがわかっただけなんですけどね。
つまり、単に被害をこうむっている側として迷惑だからやめてくれと。
百年来の怒りや悲しみ、恨みつらみ、願いはわからないでもないけれど、
冷たいけど関係ないし、思想は理解の範疇を大きく超えているし、
流れてくるニュースは不愉快だし、おちおち旅行や留学もできず、実際この前も友だちが
バルセロナでニアミスしたので、残酷だけれど、もう一回歴史の裏に行ってくださいと、
あくまでスタンスとして割り切るしかない。そんな当たり前のことを思い知らされて、
大人の階段をまた一歩のぼったシンデレラです。

ということで、多感な時期の人生に影響を与える一冊はもちろん大事ですが、
私の場合はそういったものが今で言う「ラノベ」の原型だったり、ミステリ小説風の
テレビゲームだったり、受けた影響としては極めてまともなんだけど18禁だったりと、
色んな意味で紹介するのが難しい本ばかりなので、凝り固まった中年の価値観を
「自分はなんて馬鹿でちっぽけなんだ」とほろ苦く揺り動かしてくれた本書を紹介させていただきます。

補足:テロ・戦争の善悪について、こちらも大変参考になりました。
http://d.hatena.ne.jp/shinzor/20150117/1421455898

 

2017.9.13
長谷川 雄一

公開日/2017年09月13日



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